先日、とある御仁からこんなことを言われて、しばらく茫然としてしまった。
「タバコなんて吸ってると地球温暖化を促進するんだよ!」
先方の言い分はこうである。これだけ地球温暖化が叫ばれている昨今、わざわざ葉っぱに火をつけて吸う神経が分からない、むやみに二酸化炭素を吐き出してるようなもんじゃないか、と。
悲しい気持ちがこみあげてきた。もちろん、タバコを批判されたことに対してではない。これほどまでにメチャクチャなこじつけが世間でまかり通っているのかどうかは知らないけれど、少なくとも目の前の御仁は本気でそう信じている。この事実に対して、たまらなく悲しい気持ちがこみあげてきたんである。
一本あたりせいぜい数グラムにすぎないタバコの葉っぱを燃やしたところで、いったいどれだけの二酸化炭素が出るというのだ。だったら毎日仏壇に線香をあげるのも、ロウソクをつけるのもダメだというのか? たき火などにいたっては、地球環境を撹乱する悪魔のごとき邪行なのか?
それにタバコの葉っぱは植物である。降り注ぐ陽光のもとでせっせと光合成を行い、収穫されるまでは二酸化炭素削減に貢献してきた存在なのだ。なのに、燃やしたときに出るわずかな二酸化炭素を、あえて槍玉にあげる神経がさっぱり分からない。
…と喉元まで出かかったのだけれど、ぼくのほうも実際のところどうなのか知っているわけじゃないので、とりあえず曖昧な笑みを浮かべるのみにとどめておいた。ひょっとしたらタバコは、ものすごい量の二酸化炭素を出しているかもしれないんだし。
で、帰宅してとりあえずネットで調べてみたところ(このあたりの情報源をネットに頼ってしまうのは自分でもつくづく情けないのだが、今回はどうかお許しいただきたい)、おおよそ次のようなことが判明した。
- タバコを吸うことによる二酸化炭素はどう転んでも微々たるものである。
- しかしタバコの製造工程(乾燥作業)で石油や薪を燃やすから、大量の二酸化炭素を排出しているのだ、と主張している人たちもいる。
- 実際にどれだけの石油や薪が使われているのかというデータはよく分からない。
「2」の意見を主張している人たちによれば、タバコの葉っぱを石油で乾燥させているJTなどはまだいいが、発展途上国では伐採された木材の半分以上がタバコの乾燥に用いられており、これが深刻な森林破壊、ひいては地球温暖化につながっているのだという。
ただ、発展途上国の木材の半分以上がタバコの乾燥に使われていると言われてもにわかには信じがたいし、どれだけ客観性のあるデータなのかも不明である。ちょっと調べてみただけでも、割り箸がキライな人たちは割り箸が伐採の最たる元凶になっていると説いているし、家具が気に食わない人たちは家具こそが伐採の温床になっていると主張している。要するに、何がなんだか分からない。
それにタバコの葉っぱは、バージニア種などの黄色種は火力乾燥するものの、バーレー種やオリエント種は空気乾燥するというのが業界の常識である。こういうのを十把一絡げにして「どんどん薪を燃やしている!」などと糾弾されても今ひとつ説得力がない。
百歩譲って、タバコの乾燥にそれだけの伐採材が使用されているとしよう。しかしながら、伐採が必ずしも森林破壊を招くわけではない。間伐は森を守るために必要なものだし、そうやって出た木材を使用するのはむしろ有効利用になるだろう。そもそも問題なのは無計画な伐採や違法伐採であり、これらをどうやって防ぐかが課題ではなかったか。
もちろんタバコを製造する過程で、多かれ少なかれ二酸化炭素が出ているのは事実だろう。その意味で地球環境への影響がないとは言えない。ただ、だとしたら鉄もマグロも陶器も、どれもこれも製造や運搬の過程で二酸化炭素を出している。
タバコは地球を温暖化するんだとぼくに喝破なさった御仁は、陶器を買おうとしている人にも同じようにおっしゃるんだろうか。「これを焼き上げるためにどれだけの二酸化炭素が出てると思ってるんだ!」「陶器なんて使うから地球が温暖化するんだよ!」と。
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