|
先日、出先の喫煙コーナーで一服つけていたところ、知人から突然声をかけられた。
「へえー、名倉さんってタバコ吸うんだ。吸わなさそうな雰囲気なのにね」
仮にもGo smoking友の会の会員であり、こうしてコラムまで連載させていただいている立場だというのに、タバコ吸わなさそうな雰囲気と言われるとは情けない限りである。こんなことでは面目が立たないから、今後はなんとしても「吸ってそうな雰囲気」と言われるよう精進しなければならない。
確かにぼくは、外見も服装も地味だから、必要以上にマジメそうに見えるのかもしれない。実際、会ったばかりの人から「家で勉強ばかりしてそうですね」などと評された経験もある。これで実際に勉強していればまだいいのだが、家ではただ酒飲んでゴロゴロしてるだけの身としては、なんとも忸怩たる思いで唇を噛むより他ない。
だいいち「勉強ばかりしてそう」なんていうのは、それ以外に取り得がなさそうに見えるからそう言われるのであって、これで頭も空っぽとなれば、要するに単なるアカン人ではないか。ギャップのある人が素敵! なんていう意見も時折耳にするけれど、こんなギャップなど犬も食わないことは明らかである。
そもそも、タバコ吸ってそうな雰囲気ってどんなのだろう?
こう考えて頭に思い浮かぶのは、知人の男性S氏である。某アングラ系出版社で編集をやっている方で、金髪に染めた頭にパンクっぽい服装、そして大酒飲みというのが初めて会ったときの印象。
で、少し前にみんなで酒盛りしていたとき、タバコを切らした隣人が初対面のS氏に「ちょっとタバコもらえませんか?」と切り出した。そこでS氏が「オレ、タバコ吸わないんですよ」と言った途端、周囲から一斉に「ええーっ? 吸ってそうなのに!!」というどよめきが起こったのだった。
タバコを吸ってないというだけでこんなに驚かれるというのも、よく考えたらおかしな話である。タバコなんて吸う人もいれば吸わない人もいるのが当然であって、これは例えばトマトジュースを飲むとか、ガムを噛むとかと同レベルの嗜癖に過ぎないわけだ。
「ええっー? トマトジュース飲まないんですか! 飲んでそうなのに!!」
「ガム噛んでないんですか!? 噛んでそうなのに!!」
こんな莫迦な話はないだろう。トマトジュース飲んでそうって一体どんな奴だ!?
だが、S氏がタバコ吸ってそうという意見については、その場にいたぼくも何となく「ああ分かる分かる!」と膝を打っていた。何ごとについても先入観はなるべく持たないよう気をつけていたつもりだが、こうして無意識のうちにステレオタイプな偏見(S氏に対してもタバコに対しても)を思い抱いていた自分が恥ずかしい限りである。これでは、ぼくに「吸わなさそうな雰囲気なのにね」と声をかけてきた知人と同じことではないか。
ちなみに、タバコを吸ってそうで吸っていない金髪パンクのS氏は、実は文学にも音楽にも科学にも裏モノにも極めて造詣が深いインテレクチュアルなのだった。マジメで勉強ばかりしてそうに見える(らしい)くせに浅学菲才なぼくとは正反対である。
できることなら「不真面目で勉強などしてなさそうに見えて実は博覧強記」「マリファナとかがんがん吸ってそうなのに実はタバコさえ吸ってない」みたいな風になりたいものだなァと思いつつ、思うだけで何もしないまま、今日もセブンスターに火をつけるのでありました。
|