大学に入ったばかりの頃、飲み会の席で級友S君が「たばこを使った手品」を披露したことがある。
「オレ、タバコの煙を右肺と左肺のどちらかで自在に吸い分けられるんですよ」という前フリから始まるこの手品。「まずは煙を左肺だけで吸って、吐くときは右肺の空気だけを出しますね」と言って一服した後、息を吐いてみると…あれまァ、確かに煙は出てこない。が、観客だってバカではない。「それって最初っから煙を吸い込んでないだけだろ!?」との指摘が次々と入る。
しかし不敵な笑みを浮かべるS君。軽く普通にタバコを吸った後、「じゃあ今度は、煙を左肺だけで吸って、はじめに左肺の煙を出してから右肺の空気を出しますね」と言うので見ていたところ…なんとまァ、前半は煙を吐いているのに、後半はまったく煙が出てこないではないか!
一堂、一瞬ポカーンとしたのち拍手喝采! うわーすげえ、オレもやってみるよ、とその場の皆が挑戦してみたものの、もちろんのこと誰一人としてできやしない。みんな酔っ払っていたこともあって場は騒然となり、「どうやるんだよ!?」「教えてくれよっ!」などと大声が飛び交う事態になってしまった。
当然ながらS君は黙ってニヤニヤしたままお開きとなり。その後もしばらくは、「タバコを左右の肺で吸い分けられるヤツ」として何となくみんなから尊敬され続けたのだった。今から考えると、こんなことでなぜずっと尊敬していたのかよく分からないけれど、場のノリというのは往々にしてこんなもんである。
ちなみにS君への尊敬が帳消しとなったのは、これまた数ヵ月後に行われた飲み会の席だった。皆から「また何かタバコの手品やってよ!」とせがまれたS君、しばらく躊躇したのち、タバコの火種が点いている側を口の中に入れて一服するという荒業に打って出たのだが、その直後、「ぎゃああ!」と叫びながら床に倒れこんでしまったのだ。翌日病院に行ったらしいから、余程のヤケドだったのだろう。本物の莫迦である。
で、ぼくはといえば、大学を出てからも時折この手品を思い出して、一人でこっそり練習したりしていた。なるたけ唇の左端でタバコをくわえてみたり、煙を吸い込むときに口の左側だけを開けてみたり。我ながら情けない話だが、「いつの日かこのスペシャルテクニックを飲み会の席で披露して、拍手喝采のモテモテ人生に生まれ変わるぞ!」と半ば本気で考えていたんである。
そして時が経つこと十余年。先日とうとう、その「やり方」を発見したのだった。
発見した途端にヘナヘナと気が抜けてへたり込みそうになった。方法は次の通りである。
- 「煙を左肺だけで吸って、吐くときは右肺の空気だけを出す」場合は、一服した後、息を吐く「真似」をする。当然、煙はまったく出てこない。
- そのとき肺に残っている煙は、普通にタバコを吸う仕草をしながら出してしまう。
- 次の「煙を左肺だけで吸って、はじめに左肺の煙を出してから右肺の空気を出す」場合は、前半は普通に息を吐いて煙を出して、後半は息を吐く「真似」をする。
手品はタネを明かさないほうがいい、という周知の事実を改めて実感させられた一件。
そして、せっかくなので飲み会の席で披露したいと思うも昨今の嫌煙ブーム。どこに出向いてもタバコを吸わせてもらえず、仕方なく独りで手品ごっこに興じる昨今なのでありました。
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